【妻のウワキ】1/3さっき非通知で電話がかかってきた。女性が非常に緊張しながら「…○○さんのご主人ですか?…奥さんウワキしてますよ」だって《不安心理◆xI1NYWPC0DyO》

【妻のウワキ】2/3さっき非通知で電話がかかってきた。女性が非常に緊張しながら「…○○さんのご主人ですか?…奥さんウワキしてますよ」だって《不安心理◆xI1NYWPC0DyO》


976
: :2010/10/26(火) 19:57:09 ID:
俺がメールを送った翌日に来た
「もう俺には構わないでくれ、迷惑を掛けるのはやめてくれ」 
というメールを最後に、それっきり男からのメールは途絶えた。 
妻は安心するのと同時に、少し拍子抜けしたようだ。 
あれほど自分に執拗に執着していたくせに、
夫である俺のたったあれだけの脅しで手のひらを返して逃げ出した男に対して、 
呆れると同時にある種の怒りや憎しみを感じているようだ。 
「あいつらしいと言えばそうだけど、
なんかあんな男のために苦しんだ自分がバカみたい」 
妻は何度か自嘲気味につぶやいていた。 
一応問題は片付き、表面上は穏やかな日々が訪れた. 
しかし、問題はそんなに簡単ではなく、
とりわけ俺は妻を取り戻した安心感から少し精神的に落ち着きはしたが、 
それでも妻に裏切られた事実が消えるわけではなく、
時折激しい怒りが湧いてきて自分で自分が抑えられなくなる。 
俺は激しく妻に詰め寄ることがたびたびあり、そのつど妻は一生懸命に謝る。 
こんなこともあった、一生懸命に謝っていた妻が急に胃を押さえてうずくまり、
苦しげに呻き泣きながら 
「…やっぱり一度あんなことがあるとダメなんだよ…
どんなに頑張ったって元には戻れないんだよ…」 
そうつぶやきながら激しく泣いた。 
我に返った俺は妻に駆け寄り、抱きしめながら詫びた。 
俺も妻もわかってはいたことだが、お互いの心の中にある、
この出来事とあの男の記憶を無害なものに変えることは容易なことではない。 


977: :2010/10/26(火) 19:59:37 ID:
人には知らないほうが良いことのほうが多いのかもしれない。 
しかし、俺は知らないことに怯え、嫉妬した。 
妻とあの男の間にあったことの全てを知った上でないと、
自分の中で消化できそうも無かった。 
毎晩俺は妻に、あの男と何を話し、何をして、どこに行ったのか、
さらにはどんな風に抱かれていたのか尋ねずにはいられなかった。 
妻は、俺を刺激しないように、言葉を選び、表現を考えながらも淡々と話す。 
俺は、苛立ち、心が騒ぎ、平静でいられなくなる。 
たまらなくまって妻を求める、そして妻の中に射精すると俺はやっと冷静に戻る。 
妻はそんな俺に抱かれ、俺が妻の中で終わると安心して眠る。 
こんな日々を重ねながら、それでも少しずつだが俺と妻は、
不幸な出来事が起こる以前の状態に戻りつつある。 
ただ、時々妻は、遠い目で、なにか抜け殻になったような感じで、 
「…どうしてあんなことしたんだろう…」とつぶやくことがある。 
そんな時俺は、不安心理からくる疑心暗鬼なのかもしれないが、
何か妙な違和感を感じることがある。 
なんと言えばいいのだろう、前提が違うと言うか、
例えるならお互いが違うものを見ながら、話をしているようなそんな感じ? 
異なる事実を基に話しをしているような感じ? 
些細なことなのかも知れないが。 


978: :2010/10/26(火) 20:01:08 ID:
俺は毎晩妻に自分が納得のいかないことや、疑問に思うこと、
聞かずにいられないことを、もう、それはいろいろと根掘り葉掘り聞いた。 
納得できるまで。 
そんな俺のとりとめのない質問に妻は、毎晩ガラスの様な目をして淡々と話した。 
時折言葉に詰まり、辛そうにしながら。 
辛そうに、言葉に詰まる時の妻の目は普通の瞳。 
それも一瞬で、次の瞬間に妻の目は再びガラスになり、妻は話を続ける。 

俺が浮気の事実を突き付け、詰め寄った晩に妻は
「あなたと別れても、あの人と一緒になる気はないから」と言った 
その言葉の意味について改めて聞いてみると妻は 
「だって、あいつはダメなやつだもん、
自分が守られたいだけで、誰かを守って一緒に生きていくことなんて出来そうもないから」 
「不安定でいつだって自分のことだけで精いっぱい、
お世辞じゃなくて、男として比べたらあなたの足元にも及ばないよ」 
妻は続ける「そりゃあ、あいつとの人生を考えたことが一度もないわけじゃないけど…」 
「でも、無理、絶望的な未来しか想い浮かばないもの」 
「私はあいつとの関係が永久には続かないことが最初からわかってた、
だから耐えられたんだと思う」 


980: :2010/10/26(火) 20:07:17 ID:
それなら、あの男のSEXがそんなに良かったのかと聞く俺に、妻が答えて言うには。 
「あいつはそもそも性的に決して強いわけじゃなくて、
はっきり言えばかなり弱い部類に入るんじゃないかと思う(俺と比較して)」。 
会えば必ず妻の体を求めたそうだが、妻を裸にして、
執拗に愛撫を続けても勃たないことが度々あり、男はしだいに苛立っていく。 
妻を抱きたいのに思うようにならない自分自身に苛立つ男に、
しかたなく妻はじっと身を任せる。 
しかし酷い時には2時間近くそうしていても結局ダメな時もあったようだ。 
もちろん妻がフェラをしてもダメ、何をしてもダメ。 
もう止めようよと妻が言うと、しぶしぶ男は妻の体から離れて
「ちくしょう…なんで勃たないんだよ…」と呟きながら激しく落ち込む。 
そんな時がたまらなく厭だったと妻は言う。 
勃った時でも基本的に男は早く、
大抵の場合は1分から長くても3分程度しか持たないそうで、 
十分に勃起していない状態で、半ば無理やりに挿入して、
柔らかい状態のまま、ほんの数秒で射精してしまったこともあるらしい。 
妻は「あいつに抱かれていったことは一度もない」と断言していた。 
そして「あいつが毎回会えば必ず私を抱きたがったのは、
コンプレックスの裏返しだったのかもね」と妻は分析していた。 
妻のオナニービデオの件も、そんな男の「性」的な面での「歪み」と言うのか、
「弱さ」が大きく関係していたようで、 
必死で懇願されて、結局妻は最後には拒みきれなかったと言っていた。 
本人が言うには「…ある種の同情って言うのか、憐れみって言うのか…」 


982: :2010/10/26(火) 20:09:03 ID:
妻が手帳に生理周期や体温を毎日書き込んでいた理由や、
無理やり犯されながらなぜあの男と付き合うことにしたのかも聞いた。 

6月17日、妻があの男にレ◯◯された時に、妻は膣内に射精されてしまう。 
生まれて初めて男に力ずくで犯されて、
放心状態の妻は、泣きながら謝り、必死で妻を求める男の姿に、 
自分を襲った受け入れられない現実からのある意味の逃避を見出す。 
「この人は悪い人じゃない、可哀想な人、私が助けてあげなくちゃ」 
そう思うことで壊れかけた自我を保つ。 
しかし、開放されて家に帰り、娘の姿を見た瞬間に現実が襲いかかる。 
そのころ俺と妻は新しく子供を作るつもりは無かった。 
しかし、娘も幼稚園に通うようになり、
ある意味では出来たら出来たでそれはそれで何の問題も無かった。 
俺も妻も自然に避妊に無頓着だった。 
妻は妊娠の危険がある期間のぎりぎり前で俺に抱かれ、
ぎりぎりで危険な後期に男に膣内に射精された。 
排卵日がいつだったのか、おおよそしかわからない妻は苦悩する。 
もしも妊娠していれば、子供の父親は俺なのかあの男なのかわからない。 
その現実に妻は恐怖し、心から怯えた、
あの日妻が何度もトイレで吐いたのはその現実を考えたからだった。 
あの夜俺に自分の身に起こった出来事を話すことが出来なかった
もう一つの理由はそれだった。 
妻は翌朝から自分の体温を毎日手帳に記入するようになる。 


983: :2010/10/26(火) 20:11:47 ID:
妻は男を憎んだ、しかし男は毎日何十回も電話とメールをしてくる。 
必死で謝りながら、自分と会って話を聞いて欲しいと。 
妻は拒否する、しかし男は諦めない。 
そうして10日程が過ぎ、妻に生理が訪れる、
予定より少し早かったようだが、妻は心底安心したそうだ。 
その4日後に男から家の電話にTELがあった。 
「今、○貴さんのマンションの前にいる、俺の話聞いてくれないなら家に行くよ」 
そう言って脅す男に妻は屈服する、 
結局そのまま、まともな会話も無いままに男の車に乗せられ、
妻は再び男のマンションに連れ込まれる。 
無抵抗な妻と強引に2度目の体の関係を結んだ男は、終わった後で言う。 
「俺はなにも○貴さんの家庭を壊そうとかいうのじゃないんだ、
ただこうして俺とも付き合って欲しいだけなんだ」 
妻は身勝手な男の言い分を、理解したわけでも納得したわけでもなかったが、
ある種の諦感がしだいに妻を支配していく。 
心の中の罪悪感に苦しみ、葛藤しながら、仕方が無く付き合い始めると、
男は優しく、とてもよく気が回り、 
妻が行ったことの無いような高級なレストランや、オシャレなスポット、
他にもいろいろな所に連れて行ってくれた。 
洋服や装飾品だと俺が気づくといけないからと、
妻の体のサイズを聞き出して、頼みもしないのに、
何万もするような高価な下着を自分で買ってきて、 
今度これを着けて来てといいながら、プレゼントしてくれたことが何度もあったそうだ。 
そんな男の言動に妻は「この人は本当に私のことが好きなんだ…」
それだけは強く感じたと言っていた。 
妻は、最初は嫌でたまらなかったが、だんだんとそうではなくなって行く。 
「罪悪感が無くなったわけじゃないけど、
この人は可哀想な人で、私のことを本当に必要としている。 
そう考えることで無理やりに罪悪感を押さえ込んでいた感じかな」 
そう妻は述懐していた。 


984: :2010/10/26(火) 20:15:21 ID:
妻が手帳に男と性的な関係を持った日にハートマークをつけるようになったのは、
初めて犯された日から随分たってから、遡って付けたそうだ。 
男とのSEXで妻は男に避妊具を使うように言うが、
男は俺が妻とのSEXで使用していないことを理由に拒否する。 
(男に聞かれて妻がおしえた、妻は正直に言わなければよかったと後悔していた) 
男は一応中に出さないように気をつけてはいたようだが、
基本的に早い上に、自分で上手くコントロール出来ないようで、 
体位や、体調によっては、間に合わずに中に出してしまうことが度々あったそうだ。 
そんな男の避妊を全く信用出来ない妻は、手帳の記載から、
危険日の前後だけは、男と会うことを頑なに拒否していた。 
もっとも、妻は、その前後には俺に抱かれることも拒否していたようだが。 
妻が言うには、手帳の記載は妻が妊娠の危険から身を守るための術だったそうだ。 

俺は妻に聞いた、そんな男のどこが良くて付き合っていたのかと。 
妻が言うには「そうだよね、どこが良かったんだろう?自分でもわからないよ…」 
「始めのころには、可愛いなんて思えた時期もあったんだけどね…」 
「ただね、どうしてかな、あいつと会って話してると、
なんでかこの人は私が守ってあげなくちゃとかね…」 
「それが自分の義務みたいに思えてくるんだよね…」 
「今みたいに関係が断絶された状況だとね、
私、なんであんなこと考えてたんだろうって不思議な感じがする」 
「あなたのことが嫌いになったとか、SEXに溺れたとか、そんなことじゃなくてね」 
「ただあいつのことをどうしてもほって置けなくなった感じかな、
どうしてかは今もわからないよ…」 
そう言って妻はこの話を締めくくった。 


985: :2010/10/26(火) 20:16:48 ID:
妻はあの男との係わりを俺達夫婦が今後一切持たないことを望んでいる。 
俺は表面上妻に合わせているが、このまま放置することは出来ない。 
俺の男としてのケジメの問題を差し引いたとしても、
妻のビデオはどうしても回収しなければならないと思っている。 
憎い相手に俺達家族の決定的な弱みを握られたまま平穏に暮らしていけるはずがないし、 
それに、妻のそんな姿を映したビデオを他人が持っている事実に、
俺は男として耐えられない。 
俺はA田にここまでの経過を包み隠さずに全て話している。 
A田は「奥さんは、たまたまたちの悪い狂犬に目を付けられて噛まれたようなものだろう」 
「忘れられないだろうけど許してやれよ」と妻に同情的なスタンスだが、
妻のビデオに関しては俺と同意見で、 
「そんなものがあってはお前は安心して寝てられないよな、なんとかして回収すべきだ」 
と言っている。 
どうやって男から回収するか相談しているが、なかなか難しい。 
弁護士などの専門家に依頼して話をする案も考えたが、
男にビデオの存在を否定されればそれまでになる。 
あるいは、男とA田の共通の知り合いに話をさせる案も検討したが、
妻のこんな話がこれ以上広まることはどうしても避けたい。 
結局、今のところベストな解決策は、
俺がどこかのタイミングで男と直接話をつけることだと思われる。 
その場合の男の反応を予測し、逃げ道を塞ぐためにも、
引き続き男の周りの人間に可能な限り男の話を聞くべくA田は調べを続けてくれている。 


987: :2010/10/26(火) 20:18:36 ID:
恐らくあの日の匿名電話の主で、
しばらくの間妻と交際期間が重複していたと思われる人妻から話が聞ければ早いのだが、 
今はスポクラに来ていない上に、
自分の立場上からも何も話してはくれないだろうとA田は言う。 
代わりに、少し時間がかかるかも知れないが、
あの男と2年近く前に短い期間交際していて、 
すぐに自分から一方的に分かれを告げて去って行った独身の20代の女性が
スポクラの別の店舗に来ているそうで、共通の知人を通して話が聞けるかもしれない。 
その女性は乗りの良い、イケイケっぽい感じの女性で、
過去には人気インストラクターとの関係も取りざたされていたそうだ。 
さっぱりとした性格だったらしいが、あの男と別れた後で親しい人間に、
あの男のことを「気持ち悪い」 
などとぼろ糞に言っていたという話が伝わっているそうだ。 
そこらへんの詳しい話が聞ければ良いのだが。 
それとは別に、今はスポクラには来ていないが、2月ごろまで来ていて、
その当時にあの男と仲がよく、 
何度か一緒に飲みに行っていた間柄の30歳手前の独身男性がおり、
その男性からも話が聞けるだろうとA田は話していた。 
その男性会員も、スポクラを辞めるころにはあの男とは疎遠になっていたらしい。 
その男性会員はその件について何も語ってはいなかったようだが、
恐らく何らかのトラブルがあったのだろうとA田は予想している。 
いずれにしても少し時間が必要だ。 


988: :2010/10/26(火) 20:19:41 ID:
事件発覚直後には、妻のことで頭がいっぱいで、正直男のことはどうでもよかった。 
しかし時間が経過して、妻との関係が安定し、
男が何を言い、妻と何をしていたのかがわかってくるにつれ、 
日増しに憎しみが膨らんできている。 
もしも罪に問われないのなら、俺は迷わずあいつを殺す、きっと殺せると思う。 
俺のこれまでの人生など所詮平凡なものに過ぎないが、
しかしこれまでの人生でこれほど他人を憎いと感じたことなどないし、 
また人が人のことを、ここまで憎めることに驚きを感じている。 
俺の心の平穏は、あの男に徹底的な復讐をする瞬間を想像することで保たれている。 
許せるはずもないし、許すつもりもない。 
もっとも、俺は妻とあの男を切り離し、
男だけを憎むことであえて「妻の裏切り」
という事実から目をそむけようとしているだけなのかもしれないが。 
そうすることによって、俺にとって一番受け入れられない現実を
無理やりに否定しているだけなのかも… 

正直に言って、今、俺は妻が愛しい、
昔、高校生のころに妻に恋していた当時よりもさらに愛しく感じる。 
愚かなことだが、一度他人に奪われたことによって、初めてその大切さを痛感している。 
俺はこれまで妻を大切にしてこなかったわけではない、
むしろ人並み以上に大切にしてきた自信はある。 
ただ、最初の晩に妻が言っていた
「あまりにも長く一緒にいたから、大切さが分からなくなっていた」
その言葉は俺にも当てはまる。 
いつごろからか俺は妻を一人の「女」としてではなく、
「妻」としてしか見なくなっていたような気がする。 
そして妻は俺の前で「女」であることを止めてしまい、
俺も妻の前で「男」であることを止めていたのかも知れない。 


989: :2010/10/26(火) 20:20:36 ID:
俺が家に帰ると、妻と俺はずっと一緒にいる。 
色々な話をして、一緒にテレビを見て、毎晩一緒に風呂に入る。 
妻は俺の髪を洗ってくれたり、背中を流したりしてくれる。 
俺は毎晩妻を抱く、俺に抱かれる時に妻は以前と違いすごく濡れる、何度もいく。 
俺は裸の妻に、以前と違い激しく欲情する。 
終わると妻は毎晩俺の腕の中で眠る。 

俺は毎日、嫉妬と妄想、憎しみや怒りといった感情に翻弄されながらも、
再び「女」に戻った妻との生活が、ある意味新鮮で、楽しくもある。 
もちろんこれは、俺のような状況に陥った男に共通の、一時的な感情なのかも知れない。 
他人から見れば滑稽で愚かに見えるかもしれない。 
それでも構わない、俺は今度こそ、この女が傷ついたり、
悲しい思いをすることが無いように全力で守ってやりたいと思う。 
そのためにも俺は一刻も早く、
なんとしてでもあのビデオを男から回収しなければならない。 
あれが万が一公にされて、妻が苦しむことになるぐらいなら、
俺は自分が罪に問われてもかまわない。 
非合法な手段しか回収の道がないなら、俺はためらわずにやるつもりだ。 
しかしそれは最後の手段、
押し入って力づくで奪うことはある意味いつでもできるだろう。 





125: :2010/10/30(土) 21:40:26 ID:
依然としてあの男から妻への連絡や接触は無い。 
どうやら完全に妻のことは諦めたようだ、
もっとも、このまま俺が何もしなければ、
ほとぼりがさめた頃に再び接触してくる可能性は捨てきれないが。 
妻は日に日に目に見えて精神的に安定してきている。 
しかしビデオの回収の話を俺が持ち出すと、途端に人が変わってしまう。 
頑なに「もういいでしょ、あいつだって馬鹿じゃないんだから
あれを表に出したら自分だってただじゃ済まないことぐらい分かってるよ」 
そう言って俺にもう忘れろと執拗に迫る。 
俺はそんな妻の様子にどうしようもない不信感を感じ、何度か妻を問いただした。 
「なあ○貴、ひょっとして俺にまだ言ってないことが何かあるのか?
もしそうなら全て聞かせて欲しい」 
その度に妻は「なんにも隠してることなんてないけど…
だってあなた、あいつからビデオ回収したら見るでしょ?」 
「それが嫌なの、いくら私が言った通りの内容だったとしても、
あなた見ちゃったらまた落ち込んで荒れるでしょ?」 
畳みかけるように妻は続ける。 
「もうあいつのことは二人で忘れようよ、
私はもうあいつのことなんて何とも思ってないから」 
「私が愛してるのはあなただけ、今も、10年後も、
その先もずっと私はあなたのそばにいる、それじゃダメなの?」 
妻が言うことは恐らく正論で、正しいのだと思う。 
あの男の亡霊に怯え、妻との関係にひびを入れるよりも、
すっきりと忘れて明日を考えるべきなのだろう。 

…しかし、何かが妙にひっかかる… 
その思いが日増しに強まり、まるで抜けない棘かなにかのように俺を苦しめる。 


126: :2010/10/30(土) 21:42:12 ID:
その日の昼過ぎにA田から、
例の2年前に短い期間あの男と付き合っていたという女性の話が聞けたという連絡があった。 
俺たちは久しぶりに直接会って話すことにした。 
いつもの、駅の近くのファミレスで待ち合わせると、
約束の時間の5分ほど前にA田はやってきた。 
A田は俺に「おまえやっぱ少し痩せたな、
まあ仕方がねーよな、ダイエットには苦悩が一番かもな」
などと軽口をたたきながら本題に入った。 
その女性がまだA田や妻が通っていたのと同じ店舗に来ていたころに、
A田とその女性は当然に面識があり、 
お互いに会えば挨拶ぐらいはする間柄だったようだが、
一応共通の女性の友人に間に入ってもらい3人で食事をしてきてくれたそうだ。 
その女性は今は、近郊大都市の中心部にある店舗に通っているため、
当然こちらの店舗の事情には詳しくないため、 
A田は自分の知り合いの妹があの男から交際を申し込まれていて、
相談を受けているというシチュエーションを創作して話を進めた。 
女性は明るくあっけらかんとした性格らしく、
かなり突っ込んだ話にも元気に答えてくれたようだ。 
A田「…それでね、あんまりあの人のいい噂が聞こえてこなくてね、実際どんな人なの?」 
女性「私も2カ月も付き合ってなかったからあんまりわかんないけど、
でもはっきり言って、あれは絶対に止めたほうがいいと思うよ」 
女性「強度のマザコンでね、お母さん死んでるからどうしようもないよ、
一言で言えば気持ち悪い、馬鹿だし」 
女性「それにあれはれっきとした変態だから」 
はっきりと侮蔑の表情を見せながら、
半ば嘲笑するようにそう言い放つ女性に、笑いながらA田が突っ込む。 
A田「変態って何?SMとか3Pとかそういうの?」 
笑いながら女性が「それぐらいならやってみたい思ってる男は結構多いんじゃない?」 
女性「あいつはね、なんて言えばいいのかな?もっと根が深いんだよね、
付き合いきれない、無理、さすがに詳しいことは言わないけどね」 


127: :2010/10/30(土) 21:44:13 ID:
逆にその女性からA田は質問される 
女性「あの馬鹿に付き合ってくれって言われてるのって20代の独身の子なんだよね?」 
「…あの馬鹿にしちゃ珍しいな…あいつが大好きなのって30代の子供がいる人妻のは 
ずなんだけどな…」 
A田「…?」 
女性「あの馬鹿はマザコンだからさ、
あいつの母親が死んだ時がたしか30代の中盤なんだよね」 
「それであいつはその年代の人妻に異常な執着があるのね、気持ち悪いことに」 
「私には軽い気持ちだっただろうし、全く本気じゃなかったと思うよ」 

その女性からA田が聞きだしてきてくれた情報は大体こんなところだった。 
俺とA田はその情報について話し合った。 
俺はその女性に「変態」と切り捨てられたあの男の性的な異常性が激しく気にかかる。 
SMや3Pなどと言った行為を笑って話せる女性が言い淀むほどの根深いものとは
いったいどんなおぞましいものなのだろう… 
あの男のそのおぞましい性的な異常性と、
俺ののど元に刺さったままの小さな抜けない棘は関係があるのだろうか… 
残念ながら現時点では、俺にもA田にも全く想像すら出来ない。 
妻を問い詰めたとして答えは得られるのだろうか… 
俺は先日の妻のビデオをめぐるやり取りを話した。 
A田は言った「回収はするべきだが、たとえ回収できたとしても、
奥さんの言うとおりで、おまえは見ない方がいいと思うぞ」 
「いくら内容を知ってたって、
映像として見てしまえば絶対にトラウマになるような機がする…」 
確かにA田の言うとおり、ビデオを手にしてしまえば、俺は見ずにはいられないだろう。 
そしてその結果また激しく嫉妬して妻を責めてしまうと思う。 
A田は回収には自分も立ち会い、俺に手渡すことなく自分が処分すると主張する。 
恐らくそれが一番良いのだろうと思う、しかし… 


128: :2010/10/30(土) 21:45:06 ID:
あの男が強度のマザコンだという話は、妻が俺に語った内容からも十分に推測できる。 
妻に対しての子供のように甘えた言動や、異常な執着も恐らくそこから来ているのだろう。 
男の執着の対象は子供を持つ女性の「母性」そのものなのだろう、
自分が母親から十分には与えてもらえなかったもの。 
生きていた頃の母親の姿形に最も近い年代の、
「子を持つ女性」を、自分の記憶に重ね合わせているのだろう。 
哀れな男と言えなくもないが… 

妻には、いまだに俺とA田があの男のことを調べていることは黙っているつもりだったが、 
家に帰り、娘が眠って、妻と二人だけになると結局聞かずにはいられなかった。 
俺がA田から聞いた例の女性の話をすると妻は、あの男の異常な性癖についての話には、 
「私は知らない、全然気がつかなかった」と淡々と一言話しただけで、
頑としてそれ以上話そうとしない。 
普段見たこともない、その妻の冷淡な無言の拒絶に俺は戸惑うばかり… 
結局それ以上俺は何も言えない、
しかし妻はあの男の強度のマザコンの話については色々なエピソードを話してくれた。 

「…そうだよね、あいつはマザコンだったんだよね、それも強烈なね 
 私が細かいことで世話を焼いたりすると、“イエス、マーム”とか言っちゃ 
ってすごい嬉しそうなんだよね、膝枕で耳掃除がすごい好きでさ… 
母親の生前の写真が30枚ぐらいしか残ってないみたいだけど 
豪華なアルバムに入れて大事にしまってあってね、あいつの宝物みたいだよ 
頼んでもいないのに何度も見せられた 
年は私ぐらいかな?少し影がある感じだけど、ほっそりしてて綺麗な人だよ」 

あっけらかんと、憎からぬ様子でそう語る妻に俺は苛立ちを隠せない。 
そんな俺の様子に気がついた妻は、急に黙りこむ。 
そして、しばらく間の気まずい沈黙の後で妻が言った。 
「…もう忘れようって私が言ってもあなたは忘れてくれないんだね…」 
○貴、出来ることなら俺だって全て忘れたいさ、心の中で俺はつぶやいた。 
翌朝から妻の様子が少し変わった。 
ふとした瞬間に、何か考え込んでいるような表情を見せることがある。 


129: :2010/10/30(土) 21:46:32 ID:
俺は会社帰りに時間があると、あの男のマンションの前の古びた喫茶店に寄る。 
いつもの窓側の席でただボーっと男のマンションの正面玄関と駐車場を見ている。 
男は部屋にいる時もあれば、いない時もある。 
出入りするあの男を見たことはあの日以降では一日もない。 
俺も、見張っていたところで
何かが掴める可能性がほとんど無いことは頭では分かっている。 
ただ、そこでボーっと見張っていると何故か心が落ち着く。 

土曜日の午前に会社の後輩の結婚式があった。 
妻は久々に娘をつれて、
俺のマンションから車で30分ほどのところにある実家に出かけると言っていた。 
夕方の6時ごろには帰ってくる予定で。 
神父の前で厳かに永遠の愛を誓う後輩達の様子や、
披露宴会場の華やいだ空気の中で、
俺の心は沈み、なんともいえない寂しさを感じていた。 
こんな瞬間が俺と妻にもあった、ただ… 
寂しい瞬間だった、どうしようもなく、祝辞を述べる関係になかったことが幸いだった。 

2時過ぎに披露宴が終わり俺は家路についた。 
しかし今帰っても、妻と娘は妻の実家に行っているので誰もいない。 
俺は地元駅に着くと、そのままあの男のマンションの前のいつもの喫茶店に向かった。 

その日は男は出かけているようで、
駐車場にあの男のシルバーのメルセデスは止まっていない。 
俺が煮詰まって少し焦げ臭い感じのコーヒーをすすりながら新聞を読んでいると、 
突然視界の端から、一瞬妻に似た女の後姿が、
足早にマンションの正面玄関に入っていくのが見えた。 
油断していたこともあり、はっきりとはわからなかったが、
背格好や髪型、雰囲気が妻に酷似しているような気がした。 
俺はにわかに緊張した。 
男は部屋にはいない、あれが妻だったとしたらいったい何をしにきたんだ? 
男の部屋の合鍵を持っているということか?いまだに?疑問符だらけだ。 
あの男と俺に隠れてまだ続いていて、会いにきた? 
それも不自然な感じがする、しかしこの後男が帰ってくればそういうことになる。 


130: :2010/10/30(土) 21:47:28 ID:
俺の頭が、結婚式の披露宴で飲んだアルコールのせいで少し緩んでいる状態から
にわかに急回転し始め、全力で答えを求めた。 
事件発覚後の俺と妻の苦悩の再構築の日々はなんだったのか? 
もしもまだあの男と続いているのなら、到底俺は許せない。 
湧き上がる怒りと、喪失感、恐怖で俺の心臓が激しく動悸する。 
あの男が帰ってきたら俺はもう我慢を止める、男に詰め寄り妻を呼び出してケリをつける。 
それしかない、もう無理だ。 
俺がそう決心した矢先、
現れた時と同じように唐突にマンションの正面玄関から先ほどの女が出てきた。 
今度はきちんと確認できた、間違いなく妻だった。 
妻は手ぶらで、あたりをさりげなく警戒するようにして出てくると、
普段見せたことの無い険しい表情で足早に去っていった。 
妻が男のマンションに入ってから出てくるまでおよそ10分少々。 
妻は男の留守に勝手に上がりこんでいったい何をやっていた? 
それに出入りの時のあの険しいただ事でない様子はどういうことだ? 
ピンと来た、恐らくはあのビデオだろう。 
妻はあれを密かに回収に来たのではないか? 
それしか考えられない、 
俺とA田がビデオの回収を諦めていないことを前日に知った妻が、
先回りして回収しようと今日男の留守宅に勝手に上がりこんだ。 
そういうことなのだろう。 


131: :2010/10/30(土) 21:49:25 ID:
妻の姿が消えて10分ほどしてから俺は喫茶店を出た。 
駅に戻り自宅へ向かうバスに揺られながら俺は、
妻のこの突然の大胆な行動の理由を考え続けた。 
ここまでしてでも俺に見られたくないもの、
あのビデオにはいったい何が映っているのか? 
昨夜、男の性的な異常性についての話の時の妻の驚くほどの淡白な無反応。 
○貴、おまえはいったい何をされた?何をした? 
気になりだしたらそれこそきりが無く、
俺はある種の得体の知れない気持悪さをどうすることも出来なかった。 
そして妻は、今日男のマンションで目的のビデオを無事に回収したのだろうか? 
そのビデオを男がどういう状態で保存していたのかが不明なのでなんとも言えない。 
妻はマンションから出てきた時に手ぶらだった。 
しかしそのビデオがポケットに収まるサイズのものだったとしたら
持っていた可能性も捨てきれない。 
わからないことだらけだ… 
ただこれだけは分かる、俺は妻に今日の話を聞くことは出来ないし、
妻も正直に話すことはありえないだろう。 

午後5時過ぎに妻は娘と一緒に帰ってきた。 
ジーンズに細かいストライプのシャツ、羽織った黒のカーディガン、
やはり間違いなくあれは妻だった。 
妻の様子は俺が朝出かけた時と別段変化は無く、
「お嫁さんどんな人だった?」などと聞きながら 
俺が結婚式で貰ってきた引き出物を娘と二人で広げていた。 
娘にせがまれて入っていたバームクーヘンを切り分けて皿に盛り、
娘にはジュース、俺と自分にはコーヒーを入れた。 
俺は「ビデオは回収出来たのか?」と聞きたくてたまらない欲求を抑えるのに苦労した。 


132: :2010/10/30(土) 21:53:55 ID:
もしもストレートに聞いた場合に妻はどう答えるだろう? 
もしも今日妻があの男の部屋から回収していれば、当然にもう処分しているだろう。 
そして妻はありのまま正直にそう答えるのではないか? 
それならばそれである意味では問題は解決する。 
ビデオの内容は永久に闇の中で、俺がそれを知る機会は永久にこない。 
それならばそれでいい、綺麗さっぱりあの男ごと忘れてしまえばいいのではないか? 
しかし妻がもしも回収出来ていなかったとすればどうなるだろう? 
恐らくその場合も妻はこう言うのではないだろうか? 
「無事に取り戻してもう処分したから大丈夫」 
やはり妻には今日のことは話せない、
妻が今日回収していないことを前提に進めるしかない。 
あの男の手元にビデオが残る事態だけは避けなければならない。 
こんなことを考えながら、
皿に乗ったバームクーヘンを口にすることなく弄んでいる俺に妻が
「どうしたの?何考えてるの」と聞いてきた。 
俺ははっとして我に帰り、無理やりに愛想笑いをして
「いや、なんでもないよ」と曖昧に誤魔化す。 
これからは妻に状況を話せなくなった、いきなり何も話さないのも怪しまれるだろう。 
何気なく興味を失っていく姿を演じなければならない。 





813: :2010/11/06(土) 19:00:53 ID:
今日の投稿を最後にしたいと思います。 
もう書けません。 

その日俺は、朝、会社に病院に寄る旨の連絡を入れ、午前中は有給扱いにしてもらった。 
俺は、娘を迎えの幼稚園バスに乗せて見送った後、その足で病院に向った。 
マンションから10分ほどの場所にある、
内科兼外科の50代の個人病院の先生は、俺の両手を見るなり 
にやりとして「喧嘩かなにかですか?それにしても随分おやりになりましたね」と笑う。 
俺は曖昧に言葉を濁し、愛想笑いで返す。 
幸い骨折はしていなかったが、シップと包帯で両手をグルグル巻きにされた。 

病院を後にすると俺は、市内中心部にある、
あの、麻紀と言う名の人妻の夫が経営する工務店に向った。 
予め病院からアポはとってある。 
運良く直接当人が出てくれたので、俺がなるべく簡潔に事実関係を説明したうえで、
証拠のDVDを渡したいと言うと、 
麻紀のご主人は、絶句して激しく動揺している様子だったが、
結果「…お待ちしています」と言ってくれた。 

麻紀のご主人が経営する工務店は、自宅に併設された、茶色のタイル張りの鉄筋2階建。 
1階が事務フロア兼簡易な応接、2階に社長室と会議室がある。 
ガラス張りの扉を開けて中に入り、カウンターの前まで行くと、奥まで見渡せる。 
事務机が6つ向き合うように配置され、その奥に一回り大きな机が置いてある。 
一番手前の事務机に座っていた20代後半の女性が立ち上がり、
カウンターに向って歩き出そうとしたところで、 
奥の一回り大きな机に座っていた40代前半の男性が俺に気が付き、
「伊藤さん、僕のお客さんだから」と声をかけ、 
足早に俺のほうに向って歩いてきた。 
事務室内には他に社員はいなかった。 


814: :2010/11/06(土) 19:01:56 ID:
俺は、麻紀の夫に2階の社長室に通された。 
並ぶと麻紀の夫は俺より少し低い程度、身長180ちょうどぐらいか?精悍な感じで、
某外務大臣に似た、少し濃い目の二枚目だ。 
麻紀の夫は、俺に社長室のソファーを進めると、
切羽詰まった様子で、詳しい話を聞きたがった。 
俺は包み隠さず、自分が知っている全ての話をした上で、
テーブルの上に、麻紀と書かれている6枚のDVDを置いた。 
麻紀の夫は数秒間そのDVDを凝視し、一瞬目を泳がせた後に、俺の両手を指差して 
「それは、これを回収した時にですか?」と聞いてきた。 
俺が肯定すると、さらに「それで、その西川と言う男はどうなりました?」と続けた。 
俺「がまだ生きていますよ…」そう答えると、一言「…分かりました」とだけ答え 
しばし無言。 
麻紀の夫に、今後のためと言われ、
お互いの携帯番号を交換すると俺は、社長室を後にした。 

時間が押してきたので、俺はそのまま駅に向い会社に出勤した。 
勤務時間中に俺は、浅田の携帯に電話をし、
夕方いつものファミレスで会う段取りをつけた。 
浅田は俺の両手の包帯を見ると絶句していたが、
さらに俺が前日からの出来事を余すことなく話し終えると、いよいよ黙りこんでしまった。 
そして俺が3人の女の名前が書かれた、6枚のDVDを差し出し、
何処の誰か特定して欲しいと言うと、考え込んでしまった。 
DVDに映る女達の家庭を破壊することに浅田は大きな躊躇いを感じつも、
西川のような男を許せないと言う正義感との間で揺れ動く。 
結局浅田は、俺に強引に押し込まれるような形で、しぶしぶ引き受けた。 


815: :2010/11/06(土) 19:04:15 ID:
家に帰るといつものように、娘と妻が玄関で出迎えてくれる。 
少し複雑な表情で俺を見つめる妻を、俺は空虚な瞳で眺めていた。 
俺が一人で風呂に入り、寝室に行くと、先に休んでいた妻が、
パジャマを脱ぎ全裸になって俺の腕の中に潜り込んできた。 
緊張しているのか、心臓の鼓動が妻の体から伝わってきた。 
妻は長い時間そうしてじっとしていた、しかしやがて何もしない俺を悲しげに見つめる。 
そして、自分のことを見つめ返す俺の瞳に何も映っていないことに気がつくと、
ゆっくりと俺の腕の中から抜け出して、背中を向ける。 


816: :2010/11/06(土) 19:05:26 ID:
今日は家族で動物園に行った、妻は早起きして一生懸命弁当をこさえた。 
急な計画だったが、幸い好天に恵まれ暖かい一日だった。 
娘は大はしゃぎだったが、クマやライオンなどの大型の動物には、
やはりある種の恐怖を感じるようで、あまり近づこうとしなかった、 
しかしキリンを見て喜び、カラフルな小動物たちを見てはうっとりしていた。 
昼になると3人で芝生の上にレジャーマットを引いて弁当を食べた。 
最後なので、娘が前から行きたがっていた
ディズニーランドに連れて行ってやれれば良かったのだが… 
いかんせん遠すぎて、急きょ日帰りで出かけるわけにはいかなかった。 
娘がそろそろ疲れてきたところで俺たちは、
動物園を後にして今度は郊外にある大型のオモチャ屋に行った。 
大喜びで店内をあっちこちしている娘が欲しがるオモチャを、
俺は手当たり次第に買ってやった。 
娘は帰りの車中の間ずっと、俺が運転する車の後部座席で、
妻に膝枕されながら、獲得した戦利品の山に囲まれて幸せそうに眠っていた。 


817: :2010/11/06(土) 19:06:19 ID:
俺達家族が暮らすマンションが近付いてきた、俺は少し離れた裏道に車を止めた。 
俺が運転席を降りると、眠っている娘を起こさないように、
娘の頭をそっと膝から下ろし、ゆっくりと妻が後部座席から降りてきた。 
妻と娘の衣類などの生活物資は、すでに2個のスーツケースに詰め込んで、
車のトランクに乗せてある。 
ベッドや服ダンスなどは、日曜に引っ越し便で送ることになっている。 
色々考えた結果、これがベストな選択だと思う。 
今、娘を妻から引き離すことは出来ない、あまりに可哀想だ。 
俺が一緒にいなくても、妻の実家ならまだ祖父も健在だ。 


819: :2010/11/06(土) 19:07:11 ID:
妻は俺の前にやってくると、しばらく無言で俺を見つめる。 
眉間に皺を寄せ、涙をこらえ、
首を左右に2度小さく振る、ゆっくりと俺の腕の中に入ってくる。 
そして曖昧に力無く抱きしめる俺の腕の中で、目を伏せ呟く。 
「私は一番綺麗だった時間の全てをあなたにあげた、…忘れないで、あなたは私の物」 
それだけ言うと妻は、さっと身をひるがえし車に乗り込んだ、
そして二度と振り返ることなく、妻と娘を乗せた車はゆっくりと走り去る。 
俺は誰もいなくなった俺達の家の残骸に戻ると、
少しガランと殺風景な感じになった居間のダイニングテーブルの椅子に腰かけて、 
長い時間ただボーっとしていた、どれぐらいの時間そうしていたのか分からない。 
室内が夕闇に包まれてしっかりと暗くなったころに、突然の携帯の着信音で我に返った。 


820: :2010/11/06(土) 19:08:02 ID:
電話は浅田からだった。 
西川は俺に襲われた日の翌日から、必死で自分の知り合いのスポクラ関係者に、
手当たりしだいに電話をかけて、ようやく浅田に辿り着いた。 
西川は浅田に自分と俺の間に入って欲しいと言っているそうだ。 
「さっき西川から突然電話があってな、
奴はおまえが納得できる形でなんとか和解したいと言っている」 
「あいつはDVDを見たおまえが、自分が美貴さんにしたことの報復のために、
今度こそ本気で殺しに来るんじゃないかと怯えているんだよ」 
浅田に俺は「じゃあ5000万払えと伝えてくれ」と言って電話を切った。 
もしも金が手に入ったら、
全額のキャラクターの絵が書いてある娘の貯金通帳に入金してやろう。 

それにしても“美貴”って誰だ? 

なぜか、ダイニングテーブルの端の方、
ハンカチの上に使用済みの妊娠検査薬が置いてある。 




引用元:https://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/tomorrow/1287223582/
引用元:https://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/tomorrow/1288074911/